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徳山藩の人々
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「自分の足元の歴史を知りたい」それがこのブログを始めたきっかけでした。今、毛利藩の支藩徳山藩の改易(取り潰し)とその再興までの道のりを『万役山事件』として連載中。混迷の時代を己の信条に従って道を切り開いた男奈古屋里人が主人公です。

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2009/09/13 08:39
万役山事件拡がる輪その十ニ
里人はふたりには本心を隠さなくてもよいと思った。 「萩の吉元様のことを考えていたのだ」 「民部大輔様、でございますか」弥一右衛門は苦い顔で里人を見た。佐和の顔も暗く曇った。 藩の消滅以来その名は元徳山藩士たちにとって恩讐の相手として胸中に深く刻み込まれている。「うむ。あの方が何故あそこまでして殿を嫌い、追い詰めねばならなかったか残念でのう。本来ならば殿は莫大な借金を返済するのに苦しんでおられる吉元様と協力して、藩政の改革に邁進されるはずであってもよかったのじゃ」 「おっしゃる通りでござい... ...続きを見る

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2009/05/03 21:15
万役山事件拡がる輪その十一
(民部大輔様(吉元)と殿はなぜあそこまで確執を深められたのか) それがなければ御家取り潰しという最悪の結末を迎えることはなかったはずだ。 叶えられぬ望みだが直接双方に問い質してみたくなる。自分を含め数多い藩士やその家族たちが生きる術をうしない、中には命を失う者もいた。 (以前と同じ扶持を与えたからといって殿やわしらに与えた仕打ちが消せないぞ) 「だんな様、怖い目をされておられますよ」佐和の声が里人を暗い物思いから現実に引き戻した。 続く ...続きを見る

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2009/04/13 08:36
万役山事件拡がる輪その十
「おなごとはいざとなると強いものよ」 里人のことばに弥一右衛門が答えるより先に「それはそうですとも。女は子を産み育てるのですよ、逞しくなくてはその勤め果たせません」佐和が明るい声で答えた。男ふたりはただ笑ってうなづくのみである。 「おかつ殿はいま、何処に」 佐和の問いに弥一右衛門の日に焼けた顔が渋面になった。 「まさか、捕われの身に」 佐和もかつて里人と京に逃れて来るまで見張りを付けられた身である。それを聞くと弥一右衛門は首を振った。 「ご心配なく。我が子ともども親類に預... ...続きを見る

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2009/03/30 08:37
万役山事件拡がる輪その九
弥一右衛門が家に戻ると真っ暗な部屋の中にすぐに明るくなった。弥一右衛門は明るい声を作って、おかつ、戻ったぞと声を掛けた。 おかつはお帰りなさいませと両膝をつけて出迎えたがその目の中には、不安と心配が現れている。 「長いこと待たしたの。」 「これからどうなるのでございますか」 弥一右衛門はつとめて平静を装いながら、御屋館での協議の結果をおかつに話した。途中、泣き出したり、取り乱しもせず、聞き終えたおかつは迷いが晴れた顔になった。 「それではわたくし、働きます」「なんだと」 絶句した弥... ...続きを見る

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2009/03/13 20:36
万役山事件拡がる輪その八
侍にとって御家が、藩が無くなる。それが己の両親を失うことと等しい重さを持つのを弥一右衛門は御屋形からの帰り道、考え続けた。(この景色はもうすぐ見られなくなるのか)御屋形での今後の対応の話し合いは、本藩や幕府への徹底抗戦派と恭順派との論戦で紛糾した。もっとも身分の低い弥一右衛門はその場に居合わせたわけではなく、後から聞いたのだが。 (戦っても幕府が相手では、のう)あの赤穂の浪士たちも江戸城へ討ち入ったのではない。(当職の奈古屋様はあまりに理不尽な本藩寄りの判決に憤り、接収に応じず、抗戦しようと凄... ...続きを見る

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2009/03/01 20:59
万役山事件拡がる輪その七
嵐は急速に、恐ろしい勢いで拡がっていった。そして―あの日がやって来た。「殿が新庄藩に預かりじゃと!」「改易とはなぜじゃ」侍町のあちこちでは報せを聞いた侍たちの悲憤慷慨の声が聞こえる。凶報は裁定が下されて数日後、江戸からの早馬で藩に知らされていた。直ちに藩の重臣たちは嫡子の百次朗を御屋形に移らせ、藩の方針を協議していた。「おかつ、行ってくる」身分は下級でも弓持組も士分なので、御屋形に出仕しなければならない。見送るおかつの顔色は蒼かった。 「案ずるな」言葉少なく声を掛けて弥一右衛門は御屋形に向かっ... ...続きを見る

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2009/02/12 08:45
万役山事件拡がる輪その六
あの事件が起こるまで、弥一右衛門たち一家は平穏な時間を過ごしていた。小さな漣はあっても、解決できない程の問題は一家の身に降り懸かって来なかった。「ちちうえ」すくすくと育つ源之助の姿。それを優しく微笑み、時に厳しく叱るおかつ。(これを幸せというのじゃな)日々の勤めを誤りなく真面目に行いながら、弥一右衛門は己の幸福を噛み締める。 その幸せが覆されたのは、あの日、尾崎山で刃傷沙汰があった時からだ。その報せは瞬く間に藩内に知れわたった。(えらいことが起こったぞ)(萩の百姓たちを山廻り足軽の伊沢がのう)... ...続きを見る

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2009/02/01 00:48
万役山事件拡がる輪その五
朝日が弥一右衛門の目に無数の白刃となって刺さってくる。その眩しさを堪えながら弥一右衛門はおかつの元に向かった。 「おかつ!」前夜の酒の名残でよろめきながら見たおかつの顔は母となった喜びと誇りで輝いている。その隣には待ち焦がれた我が子が逞しく産声を上げていた。 (これがわしの子なのか)恐る恐る触れた手は余りにも頼りなくか細い。無骨な自分の血を分けているとは思えぬ程に。 (護らなければならぬ)この子と妻を。弥一右衛門の体を幸せと守護者としての責任感がひたひたと潮のように浸していた。 続... ...続きを見る

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2009/01/11 00:05
万役山事件拡がる輪その四
どのくらい眠っていたのか。弥一右衛門は自分を呼ぶ声で目が覚めた。二日酔いで朦朧とした頭で聞き取れたのは、「たぞ」という幸田新兵衛の声である。新兵衛は満面に笑みを浮かべ何度も同じ言葉を叫んでいる。 (何を言ってるんだ、新兵衛どのは) それが子供が生まれたと叫んでいると気付くまでに弥一右衛門は少しの間が必要だった。やがて弥一右衛門の体に歓喜の波が来た。 「おかつ、でかしたぞ」弥一右衛門と幸田新兵衛は狭い長屋の中で大声で叫び喜びあった。生まれた子供は男だった。 (わしに子が出来た。後継ぎが... ...続きを見る

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2009/01/03 21:46
万役山事件拡がる輪その三
(思えばあの頃が一番幸せだったかも知れぬ) それは一人息子の源之助が産まれた日に遡る。お産は難産で昼に産気付いたおかつは夜更けになってもまだ苦しみ続けていた。こんな時男は無力である。千々に乱れる心を悟られないようにむっつりとした顔で弥一右衛門は隣家で酒を呑んでいた。内心はおかつの傍にいてやりたかったのだが。 (お産とはこんなに長いものなのか。浜田の妻女の時は初産でももっと早かったぞ。遅い、遅すぎるぞ) 弥一右衛門の心中を察し、この家の主である同じ弓持組の幸田新兵衛はそっとさりげなく彼を見... ...続きを見る

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2008/12/24 22:06
万役山事件拡がる輪その二
妻のおかつは弥一右衛門が三十を前にして娶った女である。世話をしてくれた弓持組の黒田多市郎からおかつ殿は優しくて働き者じゃから一緒になれと言われ奥手の弥一右衛門も重い腰を上げた。祝言の夜初めて新妻を見た弥一右衛門はありゃあと心の中で落胆の声を上げた。おかつの顔は顔立ちは悪くなかったが色は浅黒く雀斑も浮いていた。弥一右衛門の好みはそれとは正反対で雪のように白い肌を持つ女に心が惹かれた。 (黒田殿にまんまとしてやられたわ) 弥一右衛門は式の間苦笑を浮かべていた。 もっとも共に暮らしてみるとおかつ... ...続きを見る

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2008/12/23 00:31
万役山事件拡がる輪その一
玉井弥一右衛門は浪人になってから裏長屋で暮らしていた。元々の家は幸運にも取り壊しを免れたが生活費の足しにと知り合いの商人に貸し、家賃を得ていた。しかし、その収入では女房と幼い息子を養っていくには到底足りる額ではなかった。 (贅沢は言わぬ。この二人を飢えさせぬ程の扶持で仕官できる家はないものか) 一人息子の源之助はまだ生まれたばかり。この子の元服まで先は長い。焦りと不安で眠れぬ夜を幾夜重ねたことだろう。むろん弥一右衛門も努力した。萩へ移った懇意の朋輩に文を送った。だが返ってくるのは愚痴ばかり... ...続きを見る

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2008/12/22 00:37
万役山事件 新たなる同志その十一
 佐和の後ろに控えている男は小声でおどおどと名乗った。  「奈古屋様、お目通りがかない安堵しております。某は弓持組で   十五石をいただいておりました玉井弥一右衛門と申しまする。」  男は里人の元の身分からいえば遥かに下位であった。男の態度も  そのせいであると里人は合点がいった。弥一右衛門はそこまで言うと  大きくため息をついた。よく見ると袷は薄汚れ顔にはそれまでの苦難を  物語るかのように年に不釣合いなほどの小皺が刻み込まれている。  (この男も藩が無くなってから苦難の道を歩ま... ...続きを見る

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2008/12/06 23:33
万役山事件新たなる同志その十
 伊勢屋からの帰路里人は口元に笑みがこぼれそうになるのを  堪えていた。りんと小夜の喧嘩ともなんともつかないやり取りを  思い出すと己の鬱屈や任務への重圧を忘れ、楽しくなってしまう。  (浮かれてはおられぬぞ、里人)  自分はあそこへ何のために通っているのだ。  そう戒める声を嘲るようにどこからともなく別の声が聞こえてくる。  りん殿。あの声、あの瞳、あのうなじ、どこをとっても申し分のない美しさ。  男ならあれほどの美人と一度でもと夢を見ても不思議は無い。おっと、しらんぷりをしても... ...続きを見る

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2008/11/18 00:33
万役山事件新たなる同志その九
(親子とは摩訶不思議なものじゃ) 子のいない里人にはりんと小夜のやりとりが面白くてたまらない。藩にいたころ里人の周りではこのように娘が母に逆らい理屈をこねるなどおよそ見られない光景だった。そこには侍と町人との違いがあったが。 「小夜、今の口の聞き方はなんですか」 文字通り柳眉を逆立ててりんが小夜に怒りを向けた。美人とはどのような表情をしてもその美しさは損なわれない。里人は密にりんの美しさに酔った。だが、このままではまずい。里人は威儀を正し、おもむろに咳ばらいをして「小夜殿、母上にそのよ... ...続きを見る

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2008/11/16 16:38
万役山事件 新たなる同志その八
「古屋様のおかげでずいぶんこの子の手跡も上手くなりまして」 りんの言葉は里人にとって誇らしいものだった。しかし、あからさまにそれを表しはせず「それはどうも」と穏やかに返すに止めた。そこで小夜が口を挟んだ。」「古屋はんは威張らんし、うちが我が儘言うても許す時は許すし、締める時は締める。ほんにええお師匠はんや」その大人びた物言いにりんは「小夜、そんな物言い古屋様に失礼や、謝りなさい」と窘めた。 しかし、小夜は素知らぬふりで菓子を食べている。りんは先程よりは語気を強め「小夜」と言い小夜の顔を睨ん... ...続きを見る

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2008/11/09 15:31
万役山事件 新たなる同志その七
 今でこそ慣れたがここへ書を教え始めてしばらくはりんの  顔を見ただけで心に漣のような思いが動いていた。  〈わけもなく胸の高鳴りを覚えた・・・わしとしたことが〉  里人には妻がいるしりんにも夫がいる。むろん里人も胸の  高鳴りこそ自然に受け止めたがこれ以上の何かを行動に  移そうとするはずもなかった。  しかし、月に何度か訪れる伊勢屋への訪問が里人が胸に秘めている  使命のための情報収集だけではなく美貌の妻女へ会うことも含まれる  ようになったことも事実であった。  もっとも... ...続きを見る

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2008/10/25 23:03
万役山事件 新たなる同志その六
 小夜の声で里人は現実に引き戻された。  小夜はしなやかな白い手指で口元を隠しながらくっくっくっと  小鳩の鳴き声のような声で笑った。  里人は優しい声音で  「小夜殿、何がおかしいのであろうか」  と訊ねた。小夜は小首を傾げ黒というよりは栗色に近い瞳を  里人に向けながら  「だって、先生のお顔がずうっとまじめなまんま固まってしもうて、   それが、ああ、おかし」   とあどけなく答えた。  その無邪気で明るい様子は里人の最も好む小夜の姿だった。  ふたりの間に和やかな空... ...続きを見る

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2008/10/19 00:09
万役山事件 新たなる同志その五
 戦と言ってもこのいくさ場には敵は見えない。  〈わしとあの方がおるのみじゃ〉  里人の心中に常にいるあの方とはいわずと知れた萩本家の当主  吉元である。吉元が幕府中枢の重臣達に手を回し、自分に反抗的な  分家の当主である元次を追放させたのだ。  〈恐るべき手腕じゃ。あちらには人材も金もある。それにひきかえわし   はその日の生活の費えも足りん。〉  まともに考えれば勝ち目はない。しかし、里人は日野屋を始めここに自分が  来るまでに様々な同志たちの助けがあることを思い出していた... ...続きを見る

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2008/10/14 00:30

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